"うつわ"を長く使っていただくためのメンテナンス方法
"うつわ"は、私たちの日常生活を非日常に変えてくれる力を持つ特別な存在です。その一方で、一つ一つが手作りで作られた"うつわ"は繊細な存在であり、適切なお手入れをしなければ、破損や劣化の原因となります。また、"うつわ"といっても、その種類は、陶器や磁器で特性も異なり、陶器や磁器、ガラス器の特性に応じたメンテナンスが必要です。本ページでは、陶器と磁器の特性を理解していただいた上で、
- 陶器・磁器を購入した直後、すぐにやって欲しいこと
- 日常的な 陶器と磁器のメンテナンス方法
- 陶器と磁器にトラブルが発生した際の対処法
- ガラス器の適切なメンテナンス方法
陶器とは?磁器とは?陶器と磁器の違い
nokaze -うつわと物語の家- で取り扱う作品は大きく陶器、磁器、ガラス器に分けることができ、それぞれに特性の違いがあります。中でも、陶器と磁器の違いを理解した上で、メンテナンスをすることが重要です。
陶器の特性
陶器は、主に粘土を原料(およそ、長石10%・珪石40%・粘土50%)としており、ざらりとした質感があり、自然由来の土の温かみが感じられるのが特徴です。吸水性が高く、使用とともに味わい深い変化が現れることがあり、陶器を利用する楽しみの一つといえます。一方で、磁器に比べると土の密度は低く、日常利用の中で吸水しやすい特性があるため、購入後すぐのケアや、日常利用の中でのシミ、におい、カビへの注意が必要ととなります。
ただし、手をかけて陶器のメンテナンスをすればするほど、長く利用でき、陶器自体の表情の変化が楽しめるのも、特徴です。日本の伝統的な和食器であり、陶器のメンテナンス方法を理解することで、和の食卓に彩を添えることができます。
陶器の代表的な焼物としては、益子焼、備前焼、瀬戸焼、唐津焼、美濃焼、常滑焼、信楽焼、萩焼などがあります。
磁器の特性
一方、磁器は石(長石や陶石)を原料(およそ、長石30%・珪石40%・粘土30%)とし、陶器よりも高温で焼くため生地が固く強度があり、硬くて吸水性がほとんどありません。そのため、メンテナンスにおいて、においや色移りなどの心配のない、手のかからない"うつわ"です。また、薄く、日常使いがしやすいのが特徴です。
磁器の代表的な焼き物としては、有田焼(伊万里焼)、九谷焼、砥部焼、波佐見焼などがあります。
陶器と磁器の違い
基本的な陶器と磁器の違いは以下になります。電子レンジ、食洗機、オーブン対応に関しては、作品によっても異なる場合があります。nokaze -うつわと物語の家- では、対応可能な場合は、店頭購入では可能な場合ことをお伝えするカードを、オンラインショップの各商品説明に記載がありますので、ぜひ参考にしてみてください。
特徴 |
陶器 |
磁器 |
---|---|---|
主な原材料 | 土 | 石 |
吸水性 |
高い |
ほぼない |
電子レンジ対応 |
基本的に不可 |
基本的に可 |
食洗機対応 |
基本的に不可 | 基本的に不可 |
オーブン対応 | 基本的に不可 | 基本的に不可 |
目止め |
基本的に必要 |
不要 |
陶器を購入した直後、すぐにやって欲しいこと
購入した陶磁器を長く使うためには、初期段階で適切なケアを行うことが重要です。特に陶器は、先ほどの説明で吸水性が高いという説明をしましたが、それ故に購入直後のメンテナンスで、長く綺麗な陶器を楽しんでいただけるようにもなりますので、メンテナンスが欠かせません。
磁器をご購入の場合は、食材のにおいや色が移る心配はあまりないため、使い始めの特別なお手入れはとくにありません。そのため、この項は読み飛ばしてください。
陶器の購入直後のメンテナンス:目止め処理
土が粗く、吸水性のある陶器は水を多く含む特性から、汚れやシミもつきやすくなります。そのため、利用し始めてからの汚れをつきにくくするために、購入直後に、水を浸した「目止め」というメンテナンスを実施します。
陶器の吸水性を抑えるために行う「目止め」は、水や油分が内部に浸透するのを防ぐ効果があります。これにより、においやシミがつきにくくなり、美しい状態を保つことができます。
また、はじめに目止めをすることで、陶器のひびなどを防ぐことができます。
<目止めの方法>
-
大きな鍋に、陶器と 陶器が隠れるほどのお米のとぎ汁を入れて弱火にかけ、沸騰するまで火をかけます。 ※とぎ汁がない場合、たっぷりの水に小麦粉または、片栗粉を大さじ2ほどを入れても、とぎ汁の代わりになります。
- 沸騰したら、火を止めて、冷ましていき、冷めて手で陶器を取れるようになったら、取り出して、水で洗い、「ぬめり」を取ります。
- その後、水気がなくなるまでしっかりと乾かします。
<粉引の作品を目止めする場合の注意点>
粉引とは、「粉を引いたように白い」というのがその名前の由来で、もともと茶色の陶器を白く見せるために生まれた、"うつわ"作りの技法です。
粉引は水がしみこみやすく、水につけると水じみが斑点になることがあります。「目止め」の際にも斑点のような模様が出ることがありますが、これは粉引きの特徴で、乾くと消えることがほとんどなので、問題ありません。仮に消えなかったとしても、その色も1点ものの作品の個性であり、特徴ですので、ご安心してお使いください。
同様に、色のあるお料理などを入れると汚れや匂いもつきやすいので、特に色の濃いものを盛り付ける時などにも、「目止め」同様に使う前にしばらく水につけておくとよいです。さらに使ったあともすぐに洗い、食器棚に戻す前によく乾燥させるようにしましょう。
<粉引作品の例>
日常的な 陶器と磁器のメンテナンス方法
<料理前> 毎回陶器を使う前のひと工夫
吸水性のある陶器(特に上述の粉引)は、吸水性が高いため、料理の色や汚れで少しずつ、使用後の"うつわ"の表情が変化していきます。この表情の変化も"うつわ"を楽しむ醍醐味の一つですが、できる限り使用による汚れやシミを防ぎたい方は、毎回使う度に「5分ほど水に浸しておく」など、水にくぐらせてから使用すると、良いと言われています。磁気は、特に水に浸す必要はありません。
<料理中> 電子レンジやオーブンの使用上の注意
電子レンジは、基本的に磁器は利用できます。陶器は、使えるものもありますが、吸水性が高いため、水分が残ったままで温めると、水分により素地が膨張し、陶器を痛め、最悪の場合割れてしまう可能性があります。
また、陶器・磁器問わず、金属系の釉薬で絵付けされているものや金属の縁があるものなどは、火花が出る可能性があるので、電子レンジは利用不可です。
そして、オーブンは、耐熱性の土でつくられていなければ利用できないため、作家様ごとに利用可能か確認しましょう。
<nokaze -うつわと物語の家- で取扱のある作家様ごとの対応表>
作家名 | 種類 | 電子レンジ | 食洗機 | オーブン |
小山 暁子 | 陶器・磁器 | × | × | × |
池田 大介 | 陶器 | × | × | × |
藤原 純 | 陶器 | × | × | × |
藤原 志鈴香 | 陶器 | × | × | × |
前田 麻美 | 磁器 | ◯ | ◯ | × |
飛松 灯器 | 磁器 | △(軽い温め可) | × | × |
石川 裕信 | 陶器 | ◯ | × | × |
西野 希 | 磁器 | △(軽い温め可) | × | × |
山田 勇太郎 | 陶器 | × | × | × |
見野 大介 | 陶器 | ×(マグカップは◯) | ×(マグカップは△) | × |
川澄 智一 | 陶器 | × | × | × |
山本 雅則 | 陶器 | ◯ | ◯ | × |
梅澤 真那 | 陶器 | × | × | × |
音喜多 美歩 | 陶器 | × | × | × |
山中 勇人 | 陶器 | ◯ | ◯ | × |
額賀 円也 | 陶器 | △(軽い温め可) | × | × |
サブロウ | ガラス器 | × | × | × |
藤村 佳澄 | 磁器 | △(軽い温め可) | × | × |
古谷製陶所 | 陶器 | ◯ | △(非推奨) | × |
<料理後> 丁寧な陶器・磁器の洗い方のコツ
適切な洗い方、やってはいけない洗い方
<適切な洗い方>
陶器、磁器はやわらかいスポンジと中性食器用洗剤で優しく洗い、よく汚れを流すようにしてください。よく洗い流さないと、汚れや洗剤が陶器に残り、汚れになってしまう可能性があります。洗った後は、しっかり乾燥させることが大切です。
<やってはいけない洗い方>
以下の洗い方は、吸水性が高い陶器・磁器を傷つけることになったり、シミの原因になりますので、できる限り避けるようにしましょう。
- 長時間のつけ置き洗いをすると、吸水性の高い陶器の場合、つけ置きした汚れを陶器が吸って、カビやシミの原因になります。陶器を洗う際は、1枚ずつ洗って、すぐに乾かすようにしましょう。
- 硬いスポンジや金タワシを利用すると、"うつわ"の表面が傷つく可能性があるので、できる限り柔らかいスポンジを利用しましょう。
食洗機の使用上の注意
食洗機に"うつわ"をかけると、洗浄中に器が動いてしまったり、"うつわ"同士の衝突等で、割れやヒビの原因につながります。上記のように作家様によって、食洗機に対応しているものもありますが、長く利用するには、できれば、手洗いをしていただけると嬉しいです。
<料理後> 適切な陶器・磁器の保管方法
完全乾燥してから収納が基本
使用後は完全に乾燥させてから収納してください。湿気が残るとカビや劣化の原因になります。特に吸水性の高い陶器は完全に乾燥しておかないと、カビやシミの原因になりますので、ご注意ください。また、保管場所については、湿気の少ない場所で保管し、直射日光を避けるようにしましょう。
傷つけないように、重ねて収納するための工夫
陶磁器同士が直接触れないように、布やペーパーを挟むことで、傷つきを防ぎます。陶磁器によっては、重ねた時に表面のザラツキやぶつかりで傷がつくことがあるので、キッチンペーパーなどを引きましょう。
陶器と磁器にトラブルが発生した際の対処法
陶器や磁器を使用していると、どれだけメンテナンスを頑張っていても、シミやにおい、カビなどのトラブルが発生することがあります。その際、でも適切な解決方法をとれば、解決できる可能性があるため、すぐに試してみましょう。その上で、もしも解決しなかったとしても、一つ自分の"うつわ”の個性が増えた!そう思うと気が晴れることもあります。シミや汚れも個性の一つと思い、"うつわ"の表情を楽しんでいきましょう。
陶磁器にシミができてしまったら...
陶磁器の表面や貫入(ヒビのような模様)に染みがついてしまった場合、なるべく気付いた段階で直ぐ漂白剤につけます。茶渋やカビなども同様です。つけ置き後、柔らかいスポンジで優しく洗い流し、その上で、よくすすいで、完全に乾燥させます。
染みが表面から浸透して土にまで入り込んでしまった場合は、残念ながら取り除くのは非常に困難になってしまいます。ご留意ください。また、色付きの陶器や磁器は漂白剤で色が落ちる可能性があるため、目立たない部分で試してから使用してください。
陶磁器ににおいがついてしまったら...
少量の茶葉または、重曹やレモン汁を入れた水に陶磁器を入れて煮沸を2,3回繰り返します。それでもにおいが取れない場合、重曹を水に溶かしたものに、半日から一日浸けておきます。その後、日光に当てるなどしながら、乾燥させます。
煮沸、重曹につけた後などは、すぐにすすぎ、完全に乾燥させるようにしましょう。
陶磁器が欠けてしまったら...
欠けてしまっても気に入った"うつわ"は利用したいものです。欠けてしまってた"うつわ"に手を入れて、使い続けるのも"うつわ”の楽しみ方の一つ。
欠けてしまったうつわは、欠けた部分をやすりで擦るなど怪我をしないようにして使い続けるのも一つですが、さらに"うつわ"に表情を加えるためには「金継ぎ」がおすすめです。
金継ぎは、割れたり欠けたりした部分を漆でつなぎ、金や銀などを蒔いて仕上げる手で、ご自身の"うつわ"に新たな表情を与えることができます。
専門店などに依頼することもできますが、金継ぎ体験を実施している体験場所も近年多くありますので、自ら表情を加えるのも非常に楽しく、ご自身の"うつわ"をさらに愛おしく感じるようになるので、おすすめです。
ここまでが、陶磁器のメンテナンスの方法です。ぜひ、無理がないように、ご自身の"うつわ”のメンテナンスと表情の変化を楽しんでください。
最後に、ガラス器のメンテナンス方法をお伝えします。
ガラス器の適切なメンテナンス方法
ガラス器は美しい透明感が特徴ですが、破損しやすいというデリケートな面もあります。最後に、ガラスの器を長く愛用するためのお手入れ方法を解説します。
<料理中> 料理に利用する際には温度差に注意
ガラスの"うつわ"を利用する際に、まず気をつけたいのが温度差です。冷たく冷えたガラスの"うつわ"に熱い料理をすぐに載せてしまうと、急激な温度差で割れる可能性があります。
熱い料理を盛り付ける場合は、事前にぬるま湯でガラス器を温めることをおすすめします。
また、電子レンジやオーブンでの利用に関しては、一般的な耐熱ガラスであれば電子レンジやオーブンに対応していますが、作家様の作品は作家様ごとに異なるので、可能な限り確認し、確認できない場合は、利用を避けるようにしましょう。
<料理後> 丁寧なガラス器の洗い方のコツ
基本の洗い方は手洗いで、クレンザーやたわしなども傷の原因となるので、陶磁器同様に利用せず、やわらかいスポンジと中性食器用洗剤で優しく洗いをしてください。
ガラスは温度差に繊細です。高温に弱いので、熱いお湯を使うと割れてしまうことがあります。一方で、冷たい水で洗うと、汚れ落ちが悪くなってしまうので、40度くらいの温度がベストです。
<料理後> 適切なガラス器の保管方法
磨き終わったら、柔らかい布の上において自然乾燥させ、収納します。収納時は、重ねて収納することで、繊細なガラス器がぶつかり合い、傷やヒビが入ることがあります。陶磁器同様に、重ねるときはお皿とお皿の間にキッチンペーパーなどを挟んでクッションを作るなど、工夫を施すことが重要です。
陶磁器やガラス器は適切なお手入れをすることで、美しさを保ちながら長く使うことができます。そして、長く利用できることで、"うつわ"の表情の変化を楽しむことができます。陶器、磁器、ガラス器の特性を正く理解し、正しいケア方法を実践して、大切な器を末永く楽しみましょう。